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グローバル金融市場:自由放任の終焉

When Fortune smiles, I smile to think how quickly she will frown.
- Robert Southwell

今週のEconomist誌の特集のタイトルは"When fortune frowned"。これは今月出たIMFの世界経済見通し(和訳)の解説だが、大騒ぎの最中にこれだけレベルの高い分析ができる実力は、日本の地底メディアとは桁違いだ。例によって、いい加減な訳に私見をまじえてメモしておく:
IMFによれば、今回の金融危機による世界経済の損失は1.4兆ドル。これは4月の予想の1.5倍に達し、これまでに償却されたのは7600億ドルなので、まだ半分残っている。これによって欧米の銀行は融資残高を少なくとも10兆ドル減らし、2009年までに世界の資産は14.5%減ると予想されている。

今回の大恐慌以来の金融危機は、アメリカ中心の資本主義を大きく変えるだろう。最大の変化は、これまで貿易自由化とのアナロジーで賞賛されてきた資本市場の自由化が、常に望ましいとは限らないと証明されたことだ。政府のファイナンスへの介入は強めざるをえないが、それには注意が必要だ。

現在の証券化を中心とするファイナンスのしくみは、アングロ=サクソンの発明だ。これによって市場の流動性は高まり、効率が上がると考えられてきたが、最近では資本主義は本質的に不安定性をはらむと考えるハイマン・ミンスキーの考え方が当局に影響を与え始めている。ただ問題は、派生証券の利益の源泉の多くが規制の歪みにあることだ。たとえば銀行は、BIS規制をくぐり抜けるためにオフショアのSPCを使って過大な資産を保有してきた。

実証研究によれば、資本市場の発達した経済ほど成長率は高い。特にアングロ=サクソン型の金融システムは、衰退産業から成長産業に資源を再配分することによって急速な成長を可能にしてきた。しかしIMFの報告書によれば、金融システムが高度に発達するほどそれが崩壊した場合の打撃も大きい。特に派生証券を通じた過剰債務は、好況のときは資本効率を上げる一方、失速すると危機を拡大するpro-cyclicalな効果をもつ。

しかし単純な規制強化は答にならないばかりか、かえって歪みを拡大する。特にアメリカのバラバラで整合性のない規制システムと議会の政治的な介入は、危機に対する迅速な対応をさまたげているので、まず規制当局を改革することが先決だ。今回の危機で特徴的なのは、何も規制のないヘッジファンドがもっとも安定していることだ。過剰規制は昔の非効率な金融システムに戻すリスクがあるので、新たな枠組を考える必要がある。

今回の危機の種をまいたのが、アメリカの過剰な金融緩和であることは疑問の余地がない。FRBは、日本のデフレの轍を踏むまいとして2002〜3年に政策金利を1%まで下げ、その後も金利正常化をためらった(日本の異常な金融緩和も、キャリー取引を通じてバブルに貢献した)。この結果、行き場を失ったグローバルな過剰流動性が、暗黙の政府保証のついた住宅市場に集まった。この意味で、米政府も今回の危機の共犯者である。

要するに今回の危機は、長期にわたる異常な金融緩和、市場をゆがめる時代遅れの規制、投資銀行の不十分な監督など、政府によって作り出された側面が大きい。したがってあわてて規制を強化するよりも、まず規制当局を再編し、銀行・証券の規制を統合するとともに金融政策と監督政策を統合するなど、危機管理体制を整えるべきだ。エンロン事件のあと、SOX法でアメリカ経済が窒息した愚を繰り返してはならない。政治家やメディアの感情的な反応に流されることなく、政府と市場の適正なバランスを考え直す必要がある。
私のコメント:今回の騒動は、国際資本市場をめぐる長年の論争において、フリードマンなどの全面自由化を求める意見よりも「資本市場は違う」というバグワティの意見に軍配を上げたといえよう。IMFや世銀では最近、リバタリアンが主流だったが、今後はオバマ政権が成立すれば、リベラル派が復活してくるのではないか。資本市場への規制強化は避けられないが、G7のようなアドホックなしくみではなく、WTOとIMFを統合するなど国際的な危機管理体制を整えることも必要だろう。
コメント ( 9 ) | Trackback ( 2 )
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コメント
 
 
 
誤字? (NGT)
2008-10-11 13:28:09
> 政府のファインスへの介入は強めざるをえないが、それには注意が必要だ。

「ファイナンス」の間違いでしょうか?
 
 
 
ガ〜〜〜ン (ゆい)
2008-10-11 16:44:46
>エンロン事件のあと、SOX法でアメリカ経済が
>窒息した愚を繰り返してはならない。

僕はいま、ある企業でJ-SOX推進プロジェクトを担当しています。
J-SOXがその企業にとってプラスになるのか疑問を感じています。
そもそもまじめな企業なので、これまで大きな不祥事はありませんでした。
でも会社風土的には「お上のやることだから、しょうがない」という雰囲気です。

企業にとって、社会にとって、そして経済にとって
「無意味」ならまだしも、「有害」であるなら排除したいです。
 
 
 
住宅関連負債 (Laxmi)
2008-10-11 17:04:28
今回の訳の「今回の金融危機による世界経済の損失は1.4兆ドル」ですが,「今回の金融危機の原因となった米住宅関連負債の損失は1.4兆ドル」とした方が良いのではないでしょうか。

先生の文章のどこかで,「日本のバブル時の不良債権は10兆円だったが,その処理にかかった費用は100兆円」という文章を読んだ気がしますので,今後世界がどれくらいのコストを必要とするか分かるようになると思います。

(今回の金融危機で,米株市場の時価総額はピーク時に比べて9兆ドルほど失われているそうです。)
 
 
 
?? (池田信夫)
2008-10-11 17:51:42
「今回の危機」が「サブプライム関連」であることはわかりきっているので、書き直す必要はありません。

「日本のバブル時の不良債権は10兆円だったが,その処理にかかった費用は100兆円」

そんなことは誰も書いてないし、不良債権より処理費用のほうが大きくなることはありえない。「初期にはグロスで10兆円だった不良債権が最終的にはネットで100兆円になった」という話を取り違えてるんでしょ。

それに比べると、世界全体で1.4兆ドルというIMFの推定は小さいが、これはあくまでも先月までの資産価格をもとにしたもので、おそらくこの半月で2兆ドルぐらいに増えているでしょう。最終的には、Rogoffのいうようにアメリカだけで2兆ドル、世界全体ではその倍ぐらいですめばラッキーじゃないかな。時価総額は無関係。
 
 
 
ありがとうございました。 (Laxmi)
2008-10-11 19:41:32
なるほど私は,以下の部分を勘違いして憶えていたのですね。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/aa546b9bb758e35fab108ba8a5dd57c1
> 日本の不良債権はアメリカに比べると貸借関係も単純で、コアの規模は一桁小さかった(ネットで10〜20兆円程度)のに、それを10年かけて10倍にふくらませてしまったのだ。

---

> 最終的には、Rogoffのいうようにアメリカだけで2兆ドル、世界全体ではその倍ぐらいですめばラッキーじゃないかな。

ということは,小関レポートから処理費用を不良債権額の50〜80%と推定し,
http://www.pimco.com/LeftNav/Global+Markets/Japan+Credit+Perspectives/2008/Japan+Credit+Perspectives+Aug+2008.htm

世界全体で2兆ドル以上,アメリカだけでも1兆ドル以上の処理コストがかかるということでしょうか。

TARPの7000億ドルでは全然足りないのではないかと思っていたのですが,それほど的外れではないのですね。
 
 
 
想定元本 (池田信夫)
2008-10-11 21:11:58
「HPO:機密日誌」から「CDSの想定元本は55兆ドルもあるのに、損失は2兆ドル程度ですむのか」というTBが来ましたが、想定元本というのはあくまでも想定で、実際に動いた金ではありません。

CDSのプレミアムはふつう数%で、実際に決済するのはその差額だけなので、平均2%とすると、55*0.02=1.1兆ドルしか資金は動いていない。これしか払っていないということは、理論的には債務不履行の際の支払いもこの範囲に収まるはずなので、帳尻は合っています。

しかし今のようなtail eventが起こると、この範囲を超えて債務不履行が起こる確率が高い。そうするとCDOなど他の派生証券も含めて、3〜4兆ドルまで損失が拡大する可能性は十分あります。
 
 
 
経済学を学んでない者ですが (ペンギン)
2008-10-12 19:33:30
今回の騒動で、金融機関への監視強化ということが良く言われていますが、これは規制の強化を含むということなのでしょうか。

素人の感覚だと、パチンコで破産する人が出ないようにおこなっている「射幸心を高めすぎない」警察の監視のようなものであれば納得できます。もっともパチンコはゼロサムゲームだから実生活(実経済)に影響が出ないような規制が必要ですが、銀行や証券会社の商品に当てはまるかは分からないのですが……

信用売りに対する規制強化だけは必要な気がしてます。(現在のような局面では特に)
 
 
 
ありがとうございました (ひでき)
2008-10-12 20:51:33
遅いレスになり失礼しました。ほんとうにありがとうございます。

やはり、債務額などは普通の会計学、会計基準に基づいて考えるべきなのだと受け止めました。

その上で疑問に思っているのは、CDSのプレミアとして受け取った資金をAIGなどの引き受けての企業は、単なる資産として計上し、CDSの契約の性質上本来相手方が引当金として計上すべき費用を受け止めたので負債勘定には将来の支払い予想額が乗せられていたということになるのでしょうか?それとも、プレミアムは純粋に収益として計上されていたのでしょうか?それとも、市場で評価されたCDSの価格という資産と、通常の保険と同様に計算される将来の支払い金という負債の差を毎期毎期、収益として計上していたのでしょうか?

全部でも、一部でも収益として計上していれば1.1兆ドルにも及ぶプレミアムの一部は税金として州なり連邦政府に払われていたのではないかと思います。地道に会計基準を読めばいいのですが、あたりきれていません。

お答を期待するわけでないのですが、素朴な疑問としてコメントさせてください。
 
 
 
SOX法について (ペンギン)
2008-11-11 22:44:44
アメリカで、SOX法の廃止を言う議員が出てきたようですね。
http://jp.techcrunch.com/archives/20081105newt-gingrich-kill-sarbanes-oxley/
この記事、意外といろいろな場所で引用されているようです。

池田先生は以前からSOX法のマイナス面を指摘されてますが、まったく同感です。
 
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