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ケインズの闘い
私は学生時代に、先生の下請けで『ケインズ全集』の下訳をやったことがある。第1次大戦後の賠償問題についての事務的な書簡集で、訳していて疲れたが、彼の官僚としての優秀さを実感した(その先生が死去したため、訳本はいまだに出ていない)。よく知られているように、ケインズはヴェルサイユ条約でドイツに莫大な賠償を課すことに反対したが、結局フランスに押し切られた。このときケインズの案が通っていたら、第2次大戦は起こらなかっただろう。本書を読むと、ケインズの本質は経済学者ではなく、官僚あるいは政治家だったことがわかる。政治というのは「総合芸術」であり、経済学はその一部にすぎない。ケインズも、経済学は「モラル・サイエンス」の一つの手段だと考えていた。「わが孫たちの経済的可能性」というエッセイ(1930)には、次のような一節がある:
I draw the conclusion that, assuming no important wars and no important increase in population, the economic problem may be solved, or be at least within sight of solution, within a hundred years. This means that the economic problem is not - if we look into the future - the permanent problem of the human race. (italic original)そして彼は「経済問題の重要性を過大評価したり、その見かけ上の必要性のために他のもっと重要で永続的な意義をもつ問題を犠牲にしたりてはならない。それは歯医者のような専門家にまかせるべき問題なのだ」と結論する。彼にとって人生の目的は芸術や哲学であり、経済学は日常生活の雑事を合理化するための実用的な知識にすぎなかった。彼が経済システムを政府によってコントロールしようとしたのも、政府の力を過信したからではなく、逆に経済問題なんてつまらないもので、歯の治療のようにテクニカルに解決できると考えていたからだ。
これは「富の爆発的な増大」によって「必然の国」が克服され、「未来社会の経済運営は簿記のように単純なものになる」と予想したマルクスと似ているが、残念ながらケインズの孫の世代のわれわれにとっても経済問題は解決したとはいえない。彼らがともに間違えたのは、経済システムをコントロールすることは簿記のように単純ではなく、巨大な官僚機構を必要とすることだ。共産主義社会は官僚に押しつぶされ、福祉国家は官僚に乗っ取られてしまった。
しかし今回の経済危機は、過剰消費に支えられてきたアメリカ的な消費資本主義の終焉を示しているのかもしれない。先進国ではケインズのいう「絶対的必要」はもう満たされているのだから、本当は必然(必要)の国はすでに終わったのかもしれない。重要なのは政府が消費を刺激して経済の規模を維持する「ケインズ政策」ではなく、消費の中身を豊かにすることではないか。晩年のケインズが、芸術評議会の会長としてオペラやバレーの育成に最大のエネルギーを注いだように。
本書はケインズの伝記としてはよく書けているが、経済学については何も学ぶことはできない。
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近いうちに女性やヒスパニック系、アジア系の大統領が実現する可能性が出てきました。さらに、憲法を修正して移民の大統領(今のカルフォルニア州知事など)もそのうち実現するでしょう。
翻って麻生さんは、まだ量的な拡大に拘っているようにしか見えませんが・・・
ですが、一方で組み立てラインは組み立て続けねばならず、トンネル掘りの機械はトンネルを掘り続けなければならないわけですから、日本のような小さな島国は産業の空洞化と向き合いつつ少しずつ質的に高まる方向を目指すしかないような気がします。
そういうビジョンを総理・政府が示してほしいですね。
>重要なのは政府が消費を刺激して経済の規模を維持する「ケインズ政策」ではなく、消費の中身を豊かにすることではないか。晩年のケインズが、芸術評議会の会長としてオペラやバレーの育成に最大のエネルギーを注いだように。
おっしゃるとおりですね。
経済規模を維持しても、中身が空虚では、何の進歩もないと思います。
官僚の「無謬性」をテーマにした悲喜劇を制作・上演したらいいと思います。劇団四季あたりでやってくれないかな。
官僚制を一国の中でも会計的に分割して、比較可能にする道州制が鍵です。
通貨体制についても、世界中央銀行が一つの官僚制を意味する以上、終着点ではないだろうと考えます。
でも古来から経済が繁栄して、都会に暇人がたむろして、文化が栄えたイメージも強いのではないでしょうか。
むしろ先生のご指摘の後半の「福祉国家が官僚に乗っ取られた」という表現が、印象的でした。
福祉国家は社会保険というテクニックが基礎にあると思っていますが、それを扱っていた官僚が実はお手上げになったということかどうか。
失業・疾病・年金などが簿記や数理では、大規模には難しくて、破綻しているのか。
それとも民営化して起死回生するのか。
本屋でよくケインズに関する著作を最近目にします。
ケインズが流行っているのでしょうか?
その流れを受けてか、宇沢弘文氏が書いた『ケインズ「一般理論」を読む』が岩波現代文庫より復刊していました。
『容疑者ケインズ』の中で小島寛之氏が、『ケインズ』の中で吉川洋氏がそれぞれ宇沢氏の本を推薦されていたのですが、池田先生はこの本をお読みになったことはありますか?
池田先生のブログを拝見しておりますので、一般理論への批判は重々承知なのですが、半世紀以上も話題になる一般理論を一度読んでみたいので、その副読本に宇沢氏の本はどうかなと思いました。
宇沢氏は東大名誉教授であり、ノーベル経済学賞に近かった一人と聞いていますので、変な内容だとは思えないのですが、もし池田先生(あるいは他のブログ読者の方)がお読みになったことがあれば感想などお聞かせいただけないでしょうか?
どうぞよろしくお願いします。
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