goo

構造改革は「清算主義」か

Diggなどを見ると、大統領はオバマに決まりで、金融危機対策は「金融の社会主義化」だという意見で埋め尽くされている。政府を信用しないのはアメリカの健全な伝統だが、景気後退が深刻になってもbailoutに反対するのは、大恐慌のときフーバー政権がとった清算主義とよく似ている。日本でも昭和初期に、銀行の倒産を「不良企業を整理する好機」として放置したことが金融恐慌をまねいた。

こうした清算主義はケインズが「古典派経済学」の欠陥として指弾したもので、Krugmanのようにシュンペーターやハイエクなどのオーストリア学派をその典型としてこきおろすのがお約束だ。日本でもこれを受け売りして、「小泉政権の不良債権処理は清算主義だ」と批判する自称エコノミストが一部にいたが、彼らの元祖バーナンキ自身が不良債権処理を急いでいることでもわかるように、負債の清算こそ最優先の政策なのである。

ハイエクの1930年代の論文は非常にわかりにくいので、拙著でもあまり深入りしなかったが、その後、彼の資本理論や1970年代の論文を読んで考えが変わった。彼はそこで30年代の自分の議論が混乱していたことを認めた上で当時の議論を整理し、「デフレーションが起こっているときは、それを止めなければならない」([1978] p.206)と明言している。

彼の考えでは、不況の原因は部門ごとの相対価格のゆがみなので、その解決策は労働と資本の再配分である。したがってデフレによるゆがみの拡大は望ましくないので、金融政策で是正する必要がある(またそれは可能だ)。Whiteも指摘するるように、ハイエクの金融理論はMVを一定に保つことを政策目標としていたので、Vの下がった不況期にはMを増発するという結論になってしかるべきだった。ところが彼自身がこの点について混乱し、デフレによって名目賃金の下方硬直性がなくなる(!)と考えてしまった。

結果的には、ハイエクもシュンペーターも「政府は何もするな」というメッセージを出してしまい、それがケインズの「積極財政」論に敗れたことは事実だ。しかしフーバーがハイエクの影響を受けたわけではなく、ルーズベルトがケインズの本を読んだわけでもない。フーバーは銀行を叩く「国民感情」に押され、ルーズベルトは企業の求めるバラマキをやっただけだ。

おもしろいのは、資本と労働の誤配分が長期にわたって続く原因を、ハイエクが「低金利によって過剰に資本集約的(roundabout)な生産が維持される」ことに求めている点だ。これはCaballeroの、資本の固定性がコーディネーションの失敗の原因だとする議論とよく似ている。低金利は過剰資本を温存するので、長期的にはやめる必要があるが、大恐慌の最中はその時期ではない。

したがって経済が安定したら異常な低金利政策をやめ、古い資本を破棄して労働移動を促進する必要がある。これは日銀に近い考え方だ。日本の成長率が落ちているのは、輸出産業に依存した景気回復のメッキがはげ、国内産業の低生産性が露呈してきたためなので、金融緩和は不動産・建設などのゾンビ企業を延命するだけだ。それは目先のGDPを支えるかもしれないが、長期停滞は止まらない。「改革なくして成長なし」という小泉政権のスローガンは今でも正しいのである。
コメント ( 17 ) | Trackback ( 0 )
前の記事へ 次の記事へ
 
コメント
 
 
 
森永卓郎 (池田信夫)
2008-10-06 16:08:36
民主党のブレーンは、「構造改革が格差を拡大した」と主張する森永卓郎氏のようですね:

http://www.nikkeibp.co.jp/news/biz08q3/586207/

<麻生総理の頭には、庶民の生活をよくすることで消費を拡大しようという考えはないらしい。企業も確かに弱っているが、その大きな理由は、消費者に金がないためにモノが売れないからではないか。そこを考えないことには、いくら企業に減税をしても景気は一向に回復しないとわたしは思うのだ。[・・・]現在が未曾有の経済危機であることを考えれば、可能ならば民主党の景気対策のほうがいいに決まっている>

まるで幼稚園児の作文だ。これは地底人以下の最底人ですね。今度の選挙は地底人と最底人の対決か・・・
 
 
 
バラマキ合戦 (閑話ノート)
2008-10-06 17:51:10
森永卓郎氏が民主党のブレーンですか。これでは世も末ですね。

>地底人以下の最底人ですね。
まったくご指摘のとおりですね。経済学が分からない国民も先生に同意すると思いますよ。
 
 
 
政府と経済の付き合い方 (ochame-cool)
2008-10-06 19:23:54
「古い資本を破棄して労働移動を促進する必要」というのは、
2つの段階があると思います。
(1)古い資本を破棄する
(2)新しい資本を育成する
政府は上記の(1)(2)双方に力を入れるべきだということでしょうか?
それとも(1)(2)は市場によって自然に起こることなので、政府はその邪魔をしてはならないということでしょうか?
 
 
 
ビッグブラザー (tanakac)
2008-10-06 21:36:58
曰く。小泉・竹中政権による構造改革で格差が拡大し日本の社会は崩壊しつつある。市場主義反対・民営化反対・規制強化賛成。これは、社会主義です。マスコミもネットを規制してもらった方がありがたいので野党連合が政権をとるよう応援しているのでしょう。
暗澹たる気分になります。
 
 
 
後手に回った日銀 (佐藤秀)
2008-10-06 22:08:05
>経済が安定したら異常な低金利政策をやめ

今も記憶しているけれど、2003年春、りそな救済してから銀行株はその年の秋まで異常なほど暴騰した。けれど、実際に日銀が量的金融緩和を解除し、ゼロ金利政策をやめたのは3年後の2006年。不良債権処理の公的資金完済が終わるまで待ったらしいけれど、完済の見込みがついたもっと早い段階で超低金利政策やめておけば、世界はこんなにバブル化せず、こんなひどい崩壊にもならなかったと思う。
 
 
 
リフレ派の欺瞞 (池田信夫)
2008-10-06 22:39:45
リンク先の田中秀臣氏の文章を引用しておきましょう:

<小泉政権の構造改革路線が、日本経済の停滞が非効率部門の存在という構造的な問題にあり、これを淘汰することで高い成長率を目指すという「清算主義」であったこと、そして構造的な要因が日本経済の停滞の原因ではなく循環的な要因である総需要の不足にこそ真因を求めるべき>

これは野口旭氏の主張ですが、田中氏もこれに賛同して「竹中・木村ショックで日本の株価は急降下した」と批判している。お笑いですね。まさにその「急降下」を底にして株価は上昇したのだから、リフレ派の主張が反証されたことは明らかだと思うけど、彼らはあれこれ逃げ回っている。まさに「反証不可能」な都合のいい議論です。山崎元氏の「声の出るゴキブリ」という形容を、私も進呈しておきます。
 
 
 
re:後手に回った日銀 (x-accountant)
2008-10-06 22:48:58
>完済の見込みがついたもっと早い段階で超低金利政策やめておけば、世界はこんなにバブル化せず、こんなひどい崩壊にもならなかったと思う。

もし円キャリーが世界において、そこまでのインパクトを有していたのなら、いっそ金利を上げるより団塊世代以上の資産に重税を課して若年層にばら撒いていた方が、もっと確実に世界経済のバブルを防ぎ、且つ日本経済の底上げを果たせたでしょう。
なにせ、その「世界にバブルをもたらす」日本の金融資産の大半は団塊世代以上が保有しているらしいですから。
 
 
 
円高 (ゆい)
2008-10-06 23:38:24
先生の予想通り
円高が進んでいます。
100円を突破するぼでしょうか。。
 
 
 
円キャリー (佐藤秀)
2008-10-07 00:08:14
>その「世界にバブルをもたらす」日本の金融資産の大半は団塊世代以上が保有しているらしいですから。

円キャリーって別に日本の資産家だけがやっているわけじゃないですよ。外国人投資家が低利な円を調達して外国通貨と交換し、リスク商品に投機したわけですよ。借り入れが低金利であればあるほど、思い切りリスクの高い投資をする動機付けになるんですよ。
 
 
 
Liquidationism (池田信夫)
2008-10-07 01:34:00
そもそも清算主義とは、フーバー政権のメロン財務長官の"Liquidate labor, liquidate stocks, liquidate the farmers, liquidate real estate"という言葉に示されるように「何もせずに恐慌を放置すること」です。日本の90年代には日銀が超緩和政策をとったので、この意味での清算主義ではない。小泉政権の不良債権処理を清算主義とよぶなら、今度のバーナンキの不良債権処理は何とよぶのかね。

念のためいうと、私はインフレ目標が政策として無意味だとは考えていないし、リフレ派をすべてゴキブリだとも思っていません。岩田規久男氏や伊藤隆敏氏のような立派な経済学者もいます。しかし彼らは、自分と違う意見を「経済学を知らない」などと罵倒しない。

まぁこういう学説史業界のアマチュアは『経済セミナー』で学生相手にいばってるだけで、学界でも相手にされてないし、政策への影響力もないから、どうでもいいんだけど。
 
 
 
次の大統領はラッキー (free_programer)
2008-10-07 03:26:07
職場の上司のアメリカ人と、アメリカの経済状態について放したけど、唖然とするほど楽観的だった。「アメリカ経済がリカバリーするのにどれくらいかかるかね?」の問いに「1−2年はかかるね」と豪語。「次の大統領は初年度は思い切った政策を取ってくるだろう。もしうまくいかなかったら前の大統領が悪いで切り抜ける。そして特に民主党のオバマなら共和党が悪いで切り抜けやすい。そして、日本の4−5年分の政策を1年で出すから、あっという間にハードルを越えていく。多分、次の大統領は、景気回復期を任期3,4年目にピークにするだろう。もう基本的なシオリオまでできてるだろうな」と。

まあ、1ドル70円でダウ10000を切れば、そろそろ買い場が近い気もする。ちょっと早いか。
 
 
 
Unknown (k)
2008-10-07 05:39:56
Bailoutするのはいいのですが、
http://www.ravibatra.com/Bailout.html
こちらに書いてある方法のほうが実効性あるんではないでしょうか?
 
 
 
re:円キャリー (x-accountant)
2008-10-07 07:10:59
>円キャリーって別に日本の資産家だけがやっているわけじゃないですよ。外国人投資家が低利な円を調達して外国通貨と交換し、リスク商品に投機したわけですよ。

ポイントがずれています。
貸方があれば借方があるんですよ。外国人投資家が調達した円は、円を供給した誰かの金融資産(債権)となります。

記事が古いので孫引きですが日経の2007年3月14日の記事で

http://ta104.com/note/news/000858.html
「「円借り(円キャリー)取引」の総額が20兆円程度にのぼる・・・(中略)・・・6000兆円にのぼる世界の株式時価総額と比べれば、中長期的な影響は限定的」という程度の物に過ぎないとされています。

CDSが約60兆ドルとかいわれている中、20兆円の円キャリーの、そのまた一部を利息を上げて減らしたところで、何でバブルが防げるのか。意味がありません。
 
 
 
デリバティブのレバレッジ効果 (googoomobile)
2008-10-07 09:01:01
>6000兆円にのぼる世界の株式時価総額と比べれば、中長期的な影響は限定的」という程度の物に過ぎないとされています。

素人ですが、デリバティブのレバレッジは50倍とか100倍とかに簡単に化けるから、20兆円の円キャリーの資金調達なら1,000兆円ぐらいの影響力として、市場に与えるインパクトはかなりあるのではないでしょうか?
 
 
 
Re::デリバティブのレバレッジ効果 (佐藤秀)
2008-10-07 11:31:52
その通りだと思います。
だから今、円はドルに対してもユーロに対しても、全ての通貨に対し全面高になっているんですな。ニュースでは消去法的に円が買われているなんて言っていますが、「消去」って円キャリーの巻き戻しのことですよ。意味が全然違う。ごく当たり前のメカニズムですよ。
 
 
 
これこそが問題の根では? (やまちゃん)
2008-10-07 11:56:13
>まぁこういう学説史業界のアマチュアは『経済セミナー』で学生相手にいばってるだけで、学界でも相手にされてないし、政策への影響力もないから、どうでもいいんだけど。

一般庶民には経済学の高度で正確精緻な論文より、この手の市販誌こそ影響力があるのではないでしょうか? (ワイドショーの軽薄なコメントが世間受けして世論をミスリードするように) 
でも、数学(例として)誌で、最初から明らかに反論をくらう論文が世に出ることはまずないと思いますが、経済学になるととりあえず大手を振って世に出てしまうのは何故なのでしょう? 不謹慎な言い方ですが、経済学ではそもそも「解」が存在しないのでしょうか?? 経済については、み〜んな「事後的」に「感想」を述べるてる気がするのですが、、、。
 
 
 
Unknown (bob)
2008-10-07 17:13:02
厳密に境界条件を定めることが出来れば解を求めることも可能だと思います。しかし社会の境界条件は逐一変化しているので我々は厳密な境界条件を求めることが出来ないのです。ですから解っている範囲の条件から大雑把な解を求めるしかないのです。池田先生が以前から仰ってさらにブログを通じて実践している「経済学はパンフレットであるべきだ」というのはそういうことだと思います。

厳密に境界条件が求められないのをいいことに、大雑把な解を求めるどころか自分の願望に過ぎない解を本物の解であるかのように吹聴する輩がいるのは困ったものですけどね。(彼らは解を社会の境界条件から合理的に求めるのではなく、「弱者救済」等の倫理観から決定しているのですから呆れてしまいます)
 
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
コメントをするにはログインが必要になります

ログイン   gooIDを取得する
 
この記事のトラックバック Ping-URL
 
http://blog.goo.ne.jp/tbinterface/7d77f960c95374fcb968f9429b05503d/19

ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません
 
・30日以上前の記事に対するトラックバックは受け付けておりません
・このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け付けておりません